名のない足跡


笑顔にしてあげたい。


…何度そう思ったんだろう。


ずっと側にいてほしいって、何回願ったんだろう。



でも、この気持ちを何て呼ぶかなんて、一度も考えなかった。


目を閉じたとき、"笑顔"が頭に浮かぶのが、何でなのかも考えなかった。



これが…"恋"なの?



あたしが息を切らせながらも向かったのは、護衛部の訓練場。


小さなドーム型の建物の入り口の前で立ち止まる。


入り口の扉は、開いたままだったから、入り口にいるだけで、中の様子が見える。



護衛部は、その名の通り"護る"ことが仕事。


戦うのは戦闘部に任せて、護衛部はひたすら護身術を身につける。



今は、二人一組で、一人が攻撃、もう一人が守りの動作をしていた。


それぞれが真剣で、あたしが入り口にいることなんて、誰一人気づく様子がない。


そして、あたしは彼の姿を見つけた。



「…ライト…」



ライトは、ペアの間を歩き、気になるところを指摘していた。


あたしと一緒にいるときの、おどけた表情なんてどこにもない。



険しくて、でも凛々しい。


その表情は、あたしが今まで見た中で、一番かっこいい表情だった。