名のない足跡


「ユナ、さ…」


「どうしたの、顔真っ赤だけど」


あたしは、慌てて両手で顔を隠す。


「なっ、何でもありませんっ!ユナさんは、また書籍部ですかっ」


「あはは、当たり」


ユナさんに出くわす度に、好きな人について訪ねるんだけど、未だに誰だか教えてもらえない。


書籍部だってことはわかるのになぁ。


「…ユナさん」


「ん?」


「あの……好きになるって、どんな感じですか」


気づくと、あたしはそんなことを口走っていた。


ユナさんは少し面食らったような顔をしたけど、笑って答えてくれた。


「そうだな…。その人を目で追っちゃったり、その人のことばっかり考えちゃったり」


うんうん、と頷きながら、あたしは真剣に聞く。


「笑顔にしてあげたいとか、幸せにしてあげたいとかね」



笑顔に…。


うつむいてしまったあたしに、ユナさんが心配そうに声をかける。


「ルチルちゃん?大丈…」


「大丈夫ですっ!! ありがとうございますっ!!」


顔をあげ、あたしはその場を走り去った。


あたしの気持ちを、確かめたかった。