名のない足跡


「何、言ってんのウィンってば!そんなわけっ…」


「ないって言えんのかよ?絶対に?」


あたしは、言葉に詰まった。


「言えるわよ!」って一言言えばいいのに。


でもあたしは、その一言が言えなかった。



対するウィンは、ため息をついて言った。


「あのさ、自分の気持ちに正直になれよ、あんたは。せっかく俺が迫真の演技で気づかせてやったってのに」


「………え、演技…?」


「何?本気にした?」


ニヤリと笑うウィンに腹が立って、あたしは勢いよく立ち上がる。



「ウィンの大馬鹿ッ!! サイッテ―――!!」



そう言い捨て、あたしはズカズカと執務室を出た。



「…演技なわけあるか、バカ」



ウィンの言葉は、あたしが勢いよく閉めた扉の音にかき消された。





†††


「最低、最低、さいっっって―――!!!」


そんなことを大声で叫びながら、あたしは廊下をあてもなく走り回っていた。


曲がり角を曲がった時、あたしは誰かとぶつかった。


「痛っ!!」


「いたた…って、ルチルちゃん?」


顔をあげると、ユナさんが驚いた顔で立っていた。