彼女は、マイクに手を伸ばし、掴むと、
顔とかなりの距離をあけたまま口を開いた。
第一声の、伸ばした音で、
会場の全ての会話を吹き飛ばした。
女にしては低く、
そして、女にしてはかなり太い声で
バックミュージックすらもかき消し、
空気を震わせる。
彼女はゆっくりとステージを歩き、
小悪魔のような笑みをたたえて見渡す。
酒の香りがあい交じり、客はその魅惑に酔いしれる。
身体で官能的に拍をとり、
洋楽の淫靡な言葉を吐きながら、
先ほどとは打って変わって甘い声で、彼女は会場を虜にした。
もう、彼女からは逃げられない。