「なんとかフォローして最後は先方も上機嫌だったんだけどな、あいつは駄目だ。落ち込み方が半端ない」
「そう、ですか」
「支えてやってくれよ。あいつには瀬名が必要だと思うんだよ」
先輩の顔には疲労の色が見えるけれど、創くんを責めているようには感じない。
私にも、優しく笑いかけてくれた。
創くんに私が必要かどうかはわからないけれど、少なくとも私は創くんの為に何かをしたいと思っている。
それが少しでも創くんに伝われば、そしてそれを創くんが心強く思ってくれれば嬉しい。
「はい」
力強く頷くと、先輩も頷き返してくれた。
一課へ戻ると、課長は既に退社していた。
創くんから報告を受けてすぐに帰ってしまったらしい。
「俺も帰るよ。お疲れ」
「お疲れ様でした」
先輩も帰って行き、私と創くんだけがフロアに残った。
普段は人が大勢集まるこのビルも、定時を大幅に過ぎたらどんどん寂しい空間へと変わってしまうのだ。
どう切り出そうかと、創くんのほうを見る。
自分のデスクの前に立ち竦んで、一体何を考えているのか。
「創くん」
私の声にハッとして顔を上げた創くんは、いつもの様な元気さが全く無かった。
「瀬名さん……。わざわざ待っててくれたんですよね、すいません」
そう言って頭を下げる創くんがなんだかとても痛々しくて、思わず唇を噛んだ。
何故か私まですごく悔しい気持ちになってしまう。
「創くん、今日はたくさん謝ったんでしょ?私にまで謝らなくていいんだよ」
顔を上げた創くんと目が合った。
これ以上落ち込んでほしくなくて、笑ってみせた。
創くんは、目の奥に力を入れて何かを堪えているようだった。


