願うは君が幸せなこと



「はあ……」

口から情けないため息が漏れた。

駅から会社までの道を歩く足には、昨日とは全く違うほぼペタンコのパンプス。
朝から綺麗に澄み渡った青空が、少しだけ恨めしい。心の中の澱みを照らされてしまいそうだから。

昨晩寝る前、朝起きたら全部夢であればいいと何度も何度も思った。
だけど、頭の中に鮮明に残った記憶が、寝ても覚めても一向に出ていかないのだ。

「おはようー!」

「わっ!」

会社までもう少しのところで、バシッと背中を叩かれた。
驚いて振り返ると、手をひらひらさせながら夏美が立っていた。

「おはよう…、びっくりした」

「あれ、どうしたの?テンション低い」

夏美はいつもと同じようにハキハキと元気が良くて、眩しい。
でも今の私には、夏美みたいに元気よく笑うことが出来なかった。

「ねえ、昨日どうだった?」

「え?昨日って……」

結局昨日は、会社で夏美の姿を見かけなかった。夏美のほうこそ、どうだったのだろうか。

「ほら、月宮と。あいつ全然喋らなかったんじゃない?無理矢理一緒にお店に残しちゃったから心配してたの」

「ああ、そっちね……」

なんだか一気に気が抜けて、ついそう漏らすと、夏美が不思議そうな顔をした。

「月宮って見た通り、無愛想で失礼な奴なんだけどさ、あれでなかなかいい所もあるのよ」

「本当に失礼な人だよね。人を苛立たせる天才っていうか、いちいち一言多いっていうか」

「あはは、祐希も結構ハッキリ言うわよね」

確かに自分でも思う。
月宮さんに対しては、つい何の遠慮もなく発言してしまうのだ。
まあ、あんな酷い人に遠慮する必要性を全く感じないのだけど。

「ていうか、ごめん、月宮さんって……」

「あ!やばい、私今日朝一の外回りに同行するんだった!先行くね!」

「え、あ、うん」

慌てて会社へと走り出して言った夏美の背中に向けて、小さく手を振る。
あんなに急いで、転けないか心配になった。