それからと言うもの、何故か彼はわたしの周りを付き纏うような素振りを見せる。
シフト制なので、毎日顔を合わせるわけじゃないのが幸いだったが、正直わたしは振り回されていた。


「冴木さん、教えて下さい。此処の入力の仕方なんですけど」
「あぁ、それはね。上のプルダウンの中に『他支店』があって……」

質問の答えをきちんとメモしている成海くんは、仕事ぶりは真面目だ。
しかし、仕事が手すきになったりすると

「今日はポニーテールなんですね。可愛い」

耳元で、皆に聞こえないように囁いて来たりするのだ。
何を言ってるんだ? この子は。
そう感じたのに、不覚にもゾクッとしてしまった。

……そういえば、紘希には髪型なんて、ずいぶん褒められていない。
というか、髪型なんか見ていない?
そうかもしれない。

わたしの表情が曇ったのを察したのだろうか。
隣から個包装のチョコクッキーが、すすす……と出て来た。

「女の人は甘い物好きですよね」

生き物のように動く、その渡し方が可愛らしかったので、思わず笑みが零れた。

「あははっ。ありがと」

すると意外にも、成海くんは顔を少し片手で覆って、照れたような仕草を見せた。
強気で、物怖じしない子だと思っていたから、驚いた。
可愛らしくて。

わたしの視線に耐えかねたのか、横目でちらりと視線を送り返して来た。

「……なんです?」
「可愛いとこあるんだなーと思って」

「かわ……全く嬉しくないです」

今度は拗ねたような表情に変わる。
なんだ、やっぱり普通の男の子なのかな?
わたしは少し成海くんに親近感が湧いてしまった。