桜の花が満開になる春
それは出会いと別れの季節
この日渚野高校では入学式が行われていた
永遠と続くかと思われた校長の話を聞き、新入生代表の言葉を言う生徒をどこか他人事のように眺めているものばかりだ
(眠い…しんど…)
ふわ、と欠伸をかみ殺す彼女もまたそのうちの1人
(…長い)
その後ろでボーっと前を向いている彼もまたそうだった
入学式などという式は8割人の話を聞き流しているだけで話の内容を覚えている人など多くはいないだろう
だから、式の終わった後のホームルームなんかも大切なことを聞き流してしまうものもごくまれにいるのだ
「清水君。残り君だけだって」
「?何が?」
「さっき先生言ってたじゃん、提出物回収するって。聞いてなかったの?」
「あー、うん。ゴメン。聞いてなかったや、ありがとね」
「いいよ、別に」
先ほど入学式でボーっと前を向いていた彼、清水海理【シミズ ミコト】がまさしくそうだった
慌ただしく席を立ち先生のもとへと提出物を出しに行く後姿を先ほど欠伸をかみ殺していた早乙女夏奈【サオトメ ナツナ】は興味深そうに見つめていた
「先生にお小言貰ってたね」
「うん、まぁしゃーないわな」
「入学早々お小言って…」
「笑うな。つかお前誰だ」
「え、あたし?早乙女夏奈っていうの。クラスの人の名前位覚えておこうよ。清水海理くん?」
「…極力覚えるわ」
「もう! 」
夏奈は何かとこの日海理に話しかけてきた
曰く、折角席が前後になったんだから仲良くしようよ!ということらしい
「だってほら!これも何かの縁じゃん!」
「ふぅん」
「ふぅんて何!」
「いや、別に」
海理は人にあまり興味を示さない人物だった
昔から1人を好み友人と呼べる人物も数える程しかいない
それに対し夏奈は友人が多かった
入学式の日、海理に話しかけてばかりではなくキチンとクラスで他の友人も作っていたし自身でも友人は沢山いるのだと話している
海理は夏奈が何故自分に声をかけてきたのか不思議でならなかった。
