tear drops―人魚の住む街―




しばらくの沈黙の後最初に動きを見せたのは美里だった


「昔、おばあちゃんに聞いたことがあるけど、それがどうしたの?」

「俺も聞いたことはある、けど…」

「うん。僕も少しだけなら…」


夏菜はそれを聞いてそっかそっかと、どこか納得したような顔を見せた


「ねぇ、それってどんなお話し?」




・・・・





大昔なのかそう遠くない昔なのかは分からないが、かつてこの土地では人間と人魚が共存していたと言う

人間は人魚の住みやすい環境を作り、決して危害を加えない

人魚はそのお礼にその日の海流の動きや、何か変わったことが無いか伝える

お互いの利害が一致したことによってそれは成り立っていた

時には海で共に遊び

友人関係になったり

海の中の出来事を教えたり

また逆に陸で起きた出来事を教えたり


とても平和な毎日だった

しかしそれはある日突然崩されてしまったのだ

ある、1人の男のせいで。


その男は旅人だった
名前は不明だがそこの土地の人間では無かったという。

そいつが1人の人魚を捕まえ、殺してしまった。

宿でたまたまこの土地では人魚と共存していることを耳に挟んだらしい。
そしてこの男、別の土地でもう1つ、ある噂を聞いたことがあったのだ




――――――――人魚の肉を食べると不老不死になる




そして男はそれを実行しようとした

結果、肉を食す前に他の人間に捕まってしまい口にすることは無かったのだが人間が人魚を手にかけたという事実は残ってしまう

被害にあった人魚を他の人魚の元へ返し、泣いて詫びたというが人魚達は何も言わなかった

そして、人魚はそれっきり心を閉ざしてしまったのだ

1人減り、2人減り…

とうとうその土地に訪れる人魚は居なくなってしまった




そうして月日が巡り、今に至る。