コポリ、と水が音を立てる

沈む、沈む

海の底

人の干渉のないその場所は人魚の世界

他の誰でもない、自分の生まれ故郷

沈む、沈む

明るい街を通り抜け

向かうは街のはずれの家

魔女と言われた人魚の家

自分は魔女に言いました

お願いです

自分に足をくださいな

人間と同じ

足をくださいな

どうしても会いたい人間がいるのです

忘れられない人なのです

代償なら払いましょう

お願いです

自分に足をくださいな

魔女は言いました

いいでしょう

そこまで言うのならあなたに足をあげましょう

その代わり1年です

1年して思いが通じ合わなければあなたは泡になる

もう、ここには戻って来れなくなる

それでも足が欲しいのですか?

それでも足が欲しいのです

たとえ泡になっても悔いはありません

そうですか

なら、この薬を飲みなさい

足が手に入ります

どうか幸せになってくださいな

沈む、沈む

海の底

最後に街の姿を目に焼き付けながら

さぁこの海を出よう

薬を飲もう

念願の足が手に入る

沈む、沈む

意識がどんどん遠くなる

目が覚めたらきっと足がある






今、会いに行くよ。