あることないこと言いふらす輩に呆れはするが、怒りはない。


 孤立も何も、仲間を作るつもりなど毛頭ないし、目的の通過点でしかないこの場で悪評が立っても何ら問題ない。


 軍は身分ではなく力が支配するところだ。


 弱い者が寄合を作っても、影響力など皆無。


 権力を奮っていた貴族も今では見る影もない。


 金を持っただけの弱者は、力ある強者に組み込まれていった。


 まさに自然の摂理。


 それを理解できぬ、プライドだけの愚かな貴族。


 ここは、惨めなエリートの掃き溜めだとつくづく思う。


 この女もその一人。


 そう思った。


 しかし、この女は違ったのだ。



「まぁ、悔しいのは認めるけど。あんな馬鹿な連中と一緒にしないでくれる?一色君となら気が合うと思って話しかけたの」



「俺は誰とも馴れ合うつもりはない」



「そう。今日はこれで退散するわ。でも、私しつこいのよ?」



 それだけ言うと、長い髪を靡かせて俺をすり抜けていった。


 自信ありげな横顔が視界に映り、俺は一人廊下でまたため息を吐いた。


 吐き出す息は白く温かい。


 冬の牢獄にいるからこそ、吐息の温かさはわかる。


 これがサラとのはじまりだった。