「あなたが一色冬馬?」



 机に臥せって寝ていると、女らしき声に促されゆっくりと顔を上げた。


 寝ているところを起こされ不機嫌だったが、その声が淀むことのなく透き通った声だったからどんなやつか気になったのだ。


 目線の先には、腰まで届く長い髪を靡かせ笑っている女が立っていた。



「誰だ?」



 元々、人に興味はない。


 だから、この女も知らない。



「あら?知らないの?私これでも有名よ。美人で」



 女は一人で笑った。


 人に興味はないとは言え、この女の容姿が優れていることはわかる。


 女にしては高い背にすらりとした体格、しなやかな立ち姿。


 知性を感じさせる目が少しキツい印象を与えるが、好みはどうであれかなりの美人だ。


 しかし、俺にとっては眠りを妨げた、不穏分子でしかない。


 この女のおしゃべりに付き合う筋合いはない。


 冷ややかに睨み付け、新たな寝床を探そうと歩き出す。



「もう、冗談よ。私は津上サラ。私の主席を奪ったあなたに興味があってね。」



 俺を追いかけながら、自己紹介をする女にため息を隠すことをせずに盛大に吐いた。



「恨み言垂れてる暇があれば勉強でもしたらどうだ?プライドだけ高い女なんて、救いようがないぞ」



 こういうやつは一体、何人目だろうか?


 自分が陰で何と言われているか知っている。


 民間人、しかも孤児である俺がエリート養成所であるこの士官学校に入っただけでなく、主席を取ったのが貴族様のご子息たちは気に食わないらしい。