「はい。紅茶をどうぞ。ケーキもあるから、ちょっと待っててね」



 如月がキッチンへと戻るのを見計らい、ポケットから取り出した薬を飲み物に入れる。


 あっという間に溶けるのを見届けてから部屋を見渡す。


 軍の将校級が住まうフロアは品を落とさない程度の贅が施されている。


 俺が住む佐官級以上のフロアと広さはさほど変わりない。


 繊細なる調度品と鉄壁の防壁がこのフロアを特別なものにしていた。


 しかし、如月は贅沢を嫌い、備え付けているもの以外は質素なものを使っている。


 この部屋に来るたびに、如月とこのカップだけがひどく異質で不釣り合いに俺の目に映るのだ。



「視察、お疲れ様でした。どうだった?東部に行ってたんだよね」



 如月が紅茶を口に含み、白い喉仏がごくりと動く様を眺める。


 そして、想像してしまうのだ。


 この喉仏を掻っ切っられ、真っ赤な血が流れ、彼女の命が消えてなくなっていく様を。


 白と赤のコントラストが頭の中をチラついて、それを振り払うために口を開く。



「如月。まだ、総統のことを疑ってんのか?」



 いつも繰り返す想像だ。


 自分は無限回廊を彷徨っているといつも思う。


 何度も繰り返す想像は、そのたびに俺の自由を奪っていく。