「君はいつも私が思う以上の働きをしてくれる」



 大理石の床を小さく蹴り背筋を伸ばすと、暖炉の火がゆらりと煽られ大きく燃え上がった。


 半年ぶりに見るその男のにこやかな笑みは記憶の中と何ら変わりない。



「過分なお言葉恐縮です」



「君と私の間柄でそんな堅苦しい言葉を返さないでくれたまえ。それとも何かな。辺境に飛ばされたことを怒っているのかい?」



 からかい混じりの問いかけは、この男の余興のようなもの。


 それに応じることなく、先を促す。



「総統を恨むなんてとんでもないことです。ご用件があるのならば話してくださいませんか?」



 この部屋から一刻も早く、立ち去りたかった。


 重々しい装飾の数々に吐き気がする。


 年代物の装飾品たちは目利きが見れば感嘆の唸りを上げるであろう代物ばかりで、この歴史を刻んできた部屋をより重厚にしている。


 その重厚さと均整のとれた内装が総統の執務室としてふさわしく。


 この男らしい部屋だ。


 だからこそ、吐き気がする。


 いや、息苦しい。


 この息苦しさを止める術を幾度となく考えた。


 そしてそのたびに導き出される答えは同じ。


 この男を殺せば良いと。