「お前は坂月のやり方に疑問を感じないのか?」



 同僚である俺との再会を喜んだ藤崎の表情は、神妙な表情に変わった。



「総統を呼び捨てかよ。まだ曲りなりにも軍の人間だろ」



 二人から視線を外し空を見やると雲の動きが早い。


 これは吹雪になる、間違いなく。



「総統だって私たちが休暇届を出した時点で気付いているはずよ。だからもう立派な反逆者。冬馬、総統は共和国に戦争をしかけるつもりよ」


 
 サラが言う共和国とはこの国に隣接する地でありながら温暖で草木が育つ肥沃な地である。


 我が国と違い、国土は大きくないが大国として世界の覇権を握っているのはその気候の恩恵のためだ。


 そして同じく覇権をに握るこの国は死した土地が国土の大半を占める。


 何故、共和国と同等に渡り合えるかと言えば、石油の豊富さと、この不毛な地に共和国の人間に追いやられたという歴史がもたらすハングリー精神故だろう。


 いや、今では共和国より優勢だ、だからこそ真の世界の覇権者となるべく戦争を仕掛ける。


 これは、あの男の功績以外の何ものでもない。



「知らねえな。たとえ、そうだとしてもそれがどうした?」



「どうした、だと?」



「仮に戦争が起きても、隣国を手中に収めれば温暖な気候が手に入る。温暖な気候の輸入がどれだけ国庫を圧迫しているか知っているだろう?」



 石油資源の豊富さで軍事力、財力は高い水準にあるが、冬に閉ざされたこの国に未来はない。



「戦争になれば、どれだけの犠牲が伴うかわかるだろ!」



「犠牲以上の利益をもたらす。それが俺たちの役割だ。違うか?」



 こいつらが俺を呼び出した理由なんてわかる。


 向こうだって、俺が頷くなんて思っていないだろうに。