「ーー何を、しているのですか」


辺りの空気が変わるほど、凛とした声が響いた。

懐かしく、ずっと聞きたかった声がする。ライナは顔を上げた。
そこに立っていたイルミスもまた、長髪の騎士と同様に祭礼用の制服に身を包んでいる。


「イルミス、さん……」


突然の登場に胸が詰まり、苦しい。あんなにどう振る舞おうか思案していたというのに、ライナはすっかりその場から動けなくなっていた。


「団長、私はーー」

「言い訳はいい。職務に戻りなさい」

「はっ」


短いやりとりの後、若い騎士はその場を後にした。

ライナとイルミスの間には、少し距離がある。


「あ、あのっ、お久しぶりです」


まずは挨拶だ。まだ心臓がうるさく、顔を見ることもできないライナは、必死に声をかけた。今日もまた忙しいだろうから、手短に。ライナはこの後どう話を切り替えようかと考えていると、イルミスは口を開いた。


「ライナ」

「はい」


名前を呼ばれることが、こうも嬉しいことだとは知らなかった。
しばらく離れていた分、イルミスの一挙手一投足がライナの心を侵していく。足りなかった分を埋めるかのように満ち足りた気持ちになっていく。


ーー次の、言葉を聞くまでは。


「何故、来たのですか」



言われた言葉の意味が一瞬理解できず、ライナは動きを止めた。


「何故来たのです。貴女は招待されていないはずだ」

「え……」


苛立ったように再び問われ、何も返すことができない。この花祭りへはミレーヌに誘われるがままに来てしまったため、ライナは招待のことは知らなかった。ーー浮かれていてそこまで気が付かなかった、と言った方が正しいだろう。


「人目に付く前に、帰りなさい」


そう放つイルミスの声があまりにも硬く鋭かったため、ライナの心は無残にも打ち砕かれてしまった。