庭園には、既に沢山の人がいた。どの方向を向いても皆着飾っている。


(すごい……!)


物珍しさに思わず不躾な視線を送ってしまいそうになり、なるべく前だけを見る。
ライナは、堂々と胸を張り歩くミレーヌを追いかけるように慣れない靴を鳴らした。
その時、聞き慣れない声がミレーヌの動きを止めた。


「こんにちは、ラヴォナ嬢」

「あら……お久し振りですわね」


男性は知り合いであるらしく、ミレーヌも嬉しそうに応対する。軽く紹介してもらうと、彼は優秀な商人の息子だという。そして本人も父親譲りの才がある方だとミレーヌが褒めた。

しばらく2人の話を楽しく聞いていたライナだが、なんとなく感じる雰囲気に気付いてしまい、思わず息を飲んだ。隣に立つミレーヌを見やると、照れているように頬を桃色に変えながら、視線をさまよわせている。


「……ミレーヌさん、私、向こうの方を見てきますね」


邪魔をしないようライナは2人の元から離れて歩き出した。


(私ったら本当に気が利かない……ああいうときはすぐに席を外さないと!)


鈍感なライナでも、なんとなく察することができたのは、普段と違うミレーヌの様子に気付いたからだ。もしかしたら今日のドレスも彼に見せるために選んだのかもしれない。
本当のところは分からないが、少なからず好意を持っているように感じたライナは、意外なミレーヌの一面を見ることができて嬉しくなった。


(今度は、私がミレーヌさんの話を聞く番になれるといいな)


蕾のようなミレーヌが花開く時を楽しみに待つことにしよう、とライナはこっそりと心に思う。