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花祭りは、城の入り口の前に広がっている広大な庭園で行われていた。その名に相応しく、至るところに花が咲いている。


「いい香りね」


馬車から降りると、花の香りが漂っていることにすぐに気付いた。ミレーヌはうっとりと辺りを眺めていたが、ライナにとっては良く知った香りだ。


(この香りはーー)


辺りを見回すと、純心さを表すかのような白ばかり目に入る。同じように視線を向けたミレーヌは不思議そうに言った。


「あの白い花の香りね。ーーでもどうして、同じ花ばかり溢れているのかしら。お城の庭師の腕は国一番と聞いているけれど」

「さ、さあ、どうしてでしょう……」


ミレーヌの疑問はもっともだ。城に辿り着くまでの間に沢山の色を見てきたというのに、いざ城へ着くと白一色なのだ。数だけは、他とは比べものにならないほど咲き誇っているのだが。

ーーライナはひとり、花よりも顔色を白くする思いだった。


(国王様、まさかここまで気に入ってくださっていらっしゃるだなんて……)


ミレーヌは花のそばに寄ると、屈んでそっと優しく触れる。開いた花びらが控えめな優雅さと香りを漂わせていた。


「こうして寄ると、本当に良い香りだわ。……ねえ、ライナはこの花を知っていて?」

「……はい」


何故なら自分が勧めたからだ。
ーーとは勿論ミレーヌには言えず、曖昧な返答をする。


「花の名前は、セーレンです」

「セーレン……綺麗な響きね」

「ここは沢山咲いているので華やかですが、ほんの数輪ですと香りが仄かで……不眠に効果があるとかないとか」

「不眠?! そうなのね?! 」


急に声の音量が上がったミレーヌが、ライナの眼前に迫っている。ライナはその勢いに驚いて思わず後ずさった。