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カタコトと耳の奥まで響く音と揺れを体中に感じながら、ライナはそっとハンカチを取り出した。

真っ白で清潔な印象を与えるそれは、以前泣いていたライナがイルミスから渡されたものだ。返さなくてもいいと言われてそのまま貰ってしまったが、洗った後は一度も使うことはなく部屋の引き出しにしまってあった。

そのハンカチを今日は、肌身離さず持っている。そっと口元へ当てると、干し草のような日だまりのにおいがした。


(あの時のイルミスさんが、そばにいて見守ってくれている気がするわ)

「どうかしたの?」


慣れない馬車で気分でも悪くなったのかと、隣に座っているミレーヌが心配そうに声をかける。ライナはぱっと姿勢を正して頭を振った。


「いえ、何だか緊張してしまって」


ミレーヌとドレスを選んだ日から今日までの間も、イルミスはライナの元へ訪れることはついになかった。それが全てを物語っているのだが、心のどこかで認めたくない気持ちが残っている。


(私、こんなに諦めが悪かったかしら)


運良くイルミスに会えたら、まず何と声をかけようか。既に意中の人を連れているかもしれない。もしその状況でばったり出会ってしまったら。……その時は、果たしてうまく笑えるだろうか。

ライナは、段々と近付いていく目的の華やかな場所へと、思いを馳せた。



「ねえライナ、外を見て」


馬車の窓からそっと外を覗くと、道の端が色とりどりの花で埋め尽くされている。鮮やかな歓迎に、ライナは驚いた。


「すごい……!」

「市場の花屋に、祭りを盛り上げるようお願いしたの。……本当は、お父様が全て動いてくれたのだけどね」


口だけは存分に出させてもらったわ、とミレーヌははにかんだ。

ーー城へ続く道が、虹のように色で溢れている。

ライナは、詰まっていた息を少しずつ吐き出しながら、ずっと窓の外を見つめていた。