「我慢強くて優しいところなんてそっくりだよ。ああそうだ、今度ミレーヌへ花の育て方を教えてやって欲しい」

「花の育て方……?」


何故花の育て方なのか。理解できずにライナがぱちぱちとまばたきをすると、すかさずミレーヌが口を挟む。


「お父様! その話はしないでとあれほど!」

「お前がライナに憧れているのは本当のことだろう」

「そうですけれど! い、いえ、そうではありませんわ!」


突如始まった親子喧嘩らしき状況をおろおろと不安げに見ていると、ミレーヌは勢いよく振り返りライナへ告げた。


「ライナっ、もう行くわよ!」


言いっ放しのままずんずんと部屋を後にするミレーヌを追いかけなければならない。ライナはクレトンへ礼をすると、くるりと背中を向けた。しかしクレトンはその背中に、わざと小声で呼びかける。


「ーーライナ」


再びライナが振り返れば、穏やかな顔つきをしたクレトンと目が合った。


「ミレーヌはね、昔からライナの話ばかりなんだ」

「……それは全く存じませんでした」


驚きのあまり口元を手で覆えば、クレトンは楽しそうに続ける。


「市場での仕事ぶりに憧れて、将来はライナのように自立した大人になりたいのだそうだ。そしてライナと花の話が出来るように、育て方を習いたいと思っているようでね。……手間を増やしてすまないが、あの子にも出来そうなものがあれば教えてやってくれないか」


全然知らなかった。
ミレーヌはライナの前では強がってばかりだが、普段そのようなことを考えていたとは。
せっかく素晴らしい化粧をしてもらったというのに、うっかり涙が滲みそうになってしまったライナは必死に堪える。


「ーーはい、是非」


ライナは泣き笑いのような表情を浮かべたまま、大きな声で返事をした。