ミレーヌの最後通告から数日。
願いが通じたのか、ライナの前に先日の騎士団員が現れた。


「こんにちは」


涼しくも優しい声色を聞いて、ライナは顔を上げる。声の主を見ると、絶望的な気分が、ほんの少し和らいだ気がした。


「あっ、先日の……!」


今日もきっちり制服を着込んで、清潔感のある前髪はサラサラと揺れている。
こんなちっぽけな花売りの元へなど、もう二度と来てはくれないだろうと思っていただけに、本当に驚いた。


「覚えていてくださったんですね」


彼の声が更に優しくなる。厳しいと有名な騎士団の中にも、このような人がいることをライナは初めて知った。


「も、勿論です! あの後どうなってしまったのか気掛かりで、私っ……」


緊張のあまりうまく喋れないライナを見て、思わず目を細める。


「貴女はまた、そうやって緊張なさるのですね。安心なさい、王は大層喜んでおられました」


(よかった……)


ライナがほっと息をつくと、小さく笑う声がした。


「今日はその報告と、個人的な用事で来ました」


個人的な用事。秘密めいた言葉に、ライナは顔を上げた。王国騎士団に所属するエリートの彼が、街の市場に興味があったのかと何だか嬉しくなる。騎士団員は、真面目な顔のまま言った。


「気持ちを落ち着けるために、私も自室に花を飾ろうかと思っていて。見せてもらえませんか」

「え、あ、は、はい。お待ちください」