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ライナがミレーヌの屋敷へ招かれたのは、花祭りの話を聞いた数日後のことだった。


「どうかしら? 着替えは終わった?」


いくつか見繕われたもののうちのひとつに着替えたライナは、部屋へ入ってきたミレーヌの方へ振り返った。


「あ、あの、これは……」

「あら、なかなか似合っているわよ。それにしたら?」


素直に感想を述べたミレーヌに、真っ赤な顔でライナは反論する。


「無理です! こんなに、む、胸が開いている服は着られません!」

「ーーえ?」


ミレーヌはまばたきを繰り返した。ライナの言葉の意味が分からないようだ。
ライナは確かにミレーヌの着ているものに憧れていた。しかし、実際に着るとなると話は別で、世の中のお嬢さまは皆このような羞恥に耐えて生活しているのかと思うと、尊敬してしまう。

ライナが試着していた服は、胸元にたっぷりと布地が寄せられていて華やかで優しい雰囲気なのだが、いかんせん場所が下過ぎる。鎖骨が丸見えなのだ。これではずり落ちないか気が気でなく、祭りどころではないだろう。


(もう少し、襟ぐりが上に来てくれないかしら……)


同性とはいえ見られるのがとても気恥ずかしい。ライナは両の手のひらで胸元を覆った。


「そう? 別に普通だと思うけれど」

「ふ、ふつう……」


平然と言ってのけるミレーヌを見て、ライナはくらりとめまいを覚えた。感覚が違いすぎる。やはり上流階級にいる人間と自分のような花売りは通常交わることなどないのだ。それなのにこうしてミレーヌは当たり前のようにふれあってくれる。恐らく自分は相当に恵まれているのだろう、それを忘れてはいけないとライナは改めて心に刻み込んだ。