「勿論ライナも行くわよね?」


急に笑顔を向けられて、ライナは何のことか分からずにぽかんと見つめ返した。


「行くって、どこへ?」

「……この流れで何を寝ぼけているの? 花祭りに決まっているじゃない」

「え! ええと、私は、そういう場所は……」


城で開催される催しなど、ライナには縁遠いものだ。何故それを知っているミレーヌに誘われているのか意味が分からず、しどろもどろになる。


「安心なさい。ドレスなら貸してあげるわ!」

「ど、ドレス?!」

「大体同じくらいの背格好だもの。心配ないでしょう」


その申し出にライナはほんの少し、心をときめかせてしまった。ずっと憧れていたミレーヌの服に袖を通せるかもしれない。

けれど、もしそうなったら本当に花祭りへ連れて行かれてしまう。

そうしたら、きっとーー。


「ーーそれに、行ったら騎士様に会えるかもしれないじゃない」


ライナはハッと顔を上げた。
ミレーヌは、ライナが後込みしている理由が着るものの問題だけではないことを知っていたのだ。話題に出さないだけで、ライナの心をくすぶらせていたイルミスという存在に。

必死に何でもない振りをしていたことすら見抜かれてしまっていると気付き、ライナは取り繕うのをやめた。


「……ご迷惑では、ないでしょうか」

「どうかしら。そればかりは分からないわ。……でもまだ、真相を知らないままでしょう? これを機に聞いてみたらいいじゃない」


確かにそうなのだ。
ライナは、リンディアを渡したあの日からイルミスに会っていない。あの花をどういう意図で求めたのか、誰に渡すのか、何ひとつ聞けていなかった。

ーー 一生理由を知らないまま後悔して生きるより、ありったけの勇気を出して疑問を晴らした後、思い出を懐かしみながら暮らす方が遥かに健康だ。例え、生涯ひとりだったとしても。


家に帰ったら早速ライナ向けのドレスを探さないと、とひとり張り切るミレーヌを、ライナは複雑な思いで見つめていた。