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「ーーあら、見た目の割に美味しいじゃない」

「そうですか! それは良かったです」


ミレーヌが驚いたように言い、更にもうひとくちかじっている。ライナはその様子をうきうきと眺めていた。

昼下がりはどことなく気だるく、ゆったりと時が流れている錯覚に陥る。窓から時折入り込む優しい風に頬を撫でられて、とても心地がいい。


「私は褒めている訳ではないのよ。本当、貴女っておめでたいわね」


はあ、とため息を吐きながらも目は笑っている。
言い方は意地が悪いようにも思えるが、ミレーヌの本心は既に分かっているため、ライナは特に気に病むことはなかった。


ーーセーラとダグラス以外に、ライナの料理を食べてくれる人ができた。


ライナの元へ時折ミレーヌが訪ねて来るようになったのだ。さすがに離れたライナの家まではひとりで外出する許可が出ないため、ラヴォナ家の使用人が送り迎えをしてくれていた。

妹のようでもあり、また友人のようでもある彼女はいつもこうして口では文句を並べながらも、ライナの作った料理を食べてくれる。ライナはそれだけで嬉しくなり、ミレーヌの好きな甘いものを研究する日々を過ごしていた。

今日は不格好だが味は確かなサクルを、ミレーヌと共に食べながら語らっていたところだ。


ミレーヌの持ち込む話題は、流行しているアクセサリーのことや今をときめく貴族令息の話などの年頃の女性らしいものから、市場で過ごす人々の様子や天候による街の活気の変化などの父親の仕事に関わることまで様々だった。どんな話でもライナの知らないことばかりだったため、新しい世界を覗いているようで楽しい。


「ーーそれで、市場をもっと活性化させるためには、話題作りが大事だと思うの」

「話題作り、ですか」

「ええ、そうよ。毎日同じことを繰り返しているだけでは、いつか飽きられて客足が遠のいてしまうかもしれないでしょう? たまには特別なことをしたいわ」


目を輝かせて語るミレーヌを見て、ライナは嬉しく思う。その反面、同じくらい寂しさも募った。