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「おひとりで本当に大丈夫ですか? よければ、お送りします」


ライナが問いかけるのは、これからまたひとりで家に帰ると言ったミレーヌを心配してのことだ。そんなライナの言葉が気に入らなかったのか、ミレーヌは声を荒げて戸口の向こうから振り返る。その瞬間にさらりと髪の毛が流れて、日の光に照らされた。見慣れてはいたのだが、きらきらと輝くそれをライナは改めて綺麗だと思った。


「子ども扱いしないでよ! ひとりで帰れるわ」


本人からそんな風に宣言されたとしても、いくら何でもラヴォナ家のご令嬢をひとりで帰らせるわけにはいかない。どのように説得しようかと思い悩んでいたライナは、この場にぴったりの秘策を思いついた。

すす、とミレーヌのそばに寄ると、そっと囁いた。


「最近、この辺りで物騒な噂があるんです。……その、魔女が出たとか」

「魔女ですって?!」


ぎょっとして目を大きく見開いたままライナを見つめるミレーヌは、心なしか少し震えているように見える。効果てきめんだったようだが、少々怖がらせてしまったようだ。怯えるミレーヌを安心させるようにライナは微笑む。


「はい、ですから是非」

「……ら、ライナがどうしてもと言うのなら、送ってくださっても結構よ」

「ふふ。では、お供します」


ふん、と鼻を鳴らして元気良く歩き出したミレーヌだったが、時折振り返っては日傘の中からライナがいることを確認しているように見える。その様子をとても愛らしく思い、ライナは笑いを堪えながら後ろを着いていった。