戸惑いつつもミレーヌを室内へ招き入れ、椅子に座らせた。ライナは追加のお茶とお菓子を用意しながら、そっとミレーヌの様子をうかがう。先ほどと孕む空気が明らかに変わっているのだ。まるでこの古い家が、彼女はこの場に似つかわしくないと怯えているかのようだった。


「手土産を持ってきたの。一緒にいただきましょうよ」


控えめにそう告げられて、ライナは一瞬の間ぴたりと動きを止めた。


「……あ、ありがとうございます」


何故だか急に不安になる。こんなにも普通に接してくれるミレーヌを見るのは、何年振りのことだろう。思わず手元の焼き菓子の袋を取り落としそうになった。


「ああそう、お茶はあまり熱くしないで頂戴ね」

「どうかされたのですか?」


ぬるめのお茶を要求されたことを不思議に思い問えば、ミレーヌは可憐な口元を尖らせる。


「歩いてきたから暑いのよ! それくらい分かるでしょう?」


ーーライナは今度こそ本当に袋を取り落とした。


「ここまで歩いてきたのですか?!」

「仕方ないじゃない。馬車の通れる道ではないもの」

「確かに、そうですけど……」


あらかじめ来訪の意向を知っていれば、こちらから出向いたのに。街の方からライナの家までは慣れた者ならば問題ないが、ミレーヌのような普段屋敷や市場周辺にしか出歩かないようなお嬢様には、さぞ辛かっただろう。ライナはそう思ったが、口には出さないという選択をした。そうまでしてこの場所へやってきたミレーヌの思惑が、全く読めないからだ。

口に合うかどうかも分からないお茶をそっと出した。飾りも何もない器は、ミレーヌの目にはどう映っているのだろう。ライナは、以前ミレーヌの家で出されたカップの繊細な柄を思い出していた。


ーー静かな時が流れる。

目の前の彼女が何も言わずにただ黙ってお茶を飲む姿は、ライナの落ち着かない気持ちを増幅させた。セーラに貰った焼き菓子と、ミレーヌが持ってきた柔らかく甘い菓子がテーブルに並んでいて、とても良い香りが充満している。