ある程度作業を終えると、一旦休憩にしようと家の中へ戻る。

先日倒れてしまったのは、体調管理ができていなかったせいだと痛感させられたライナは、無理をせずに余裕を持って仕事をしようと意識を改めることにしたのだ。過ぎてしまったことは仕方がないが、いつまでも子どもの頃のように元気いっぱいではいられないのだと、身をもってようやく知ることになった。

それに、休憩にちょうど良い頃合いだ。セーラがお見舞いに持ってきてくれた焼き菓子の存在を思い出せば、ライナは自然と笑顔になる。


ーーコンコン。


家の中でお茶の用意をしていると、不意に戸が叩かれた。拳全体で叩きつけるような激しい音ではなく、控えめで上品な叩き方だ。見回りの騎士が来たのだろうかと、ライナは戸口へ寄った。


「はい、どちらさ……」


戸を開けたライナは、途中で声を出すことも忘れて立ち尽くす。


「ーーご機嫌よう、ライナ」


そこには、かつてライナをテトラ市場から追い出した張本人の、ミレーヌが立っていた。


「み、みっ、ミレーヌさん!?」

「何よ、幽霊でも見たような顔をして」


紛れもない本物のミレーヌだ。しばらく会っていないうちに、どことなく雰囲気が変わったような気もする。高級なお茶の葉を思わせるような深い茶色のスカートに同じ色のジャケット。スカートの裾には白いフリルがぐるりと巡らされていて、決して地味な印象にはならない。頭には花のモチーフが付いたバレッタが留められていて、そこから癖のない美しい長い髪の毛が垂らされていた。


「……少し、よろしいかしら」

「あ、は、はい。ちょうどお茶にしようとしていたんです。どうぞ」