・・・・・

それからのライナは忙しく過ごしていた。いや、忙しくするために休みなく動いていたと言った方が正しいだろう。

いつもは休憩を入れる場面でも、せっせと花の世話に勤しんでみたり、積極的に新しい花の種や苗を仕入れてみたりした。リンディアを植えていたところには、全く別の種類の、違う色の花の種を蒔いた。

見回りの騎士たちは時折やってきて、ライナの話し相手になってくれることもあった。最近街で流行っていることや、話題の出来事を教えてもらうと、ライナもその場所にいる気分になり楽しかった。


ーーそうして、どれほどの日が経っただろう。少なくとも、リンディアの次に育て始めた花が、立派な花を咲かせるくらいにはなっていたはずだ。


「はあ。疲れた……」


ぽつりと呟いても、応えてくれる人もいない。祖母がいなくなってから、独り言が随分増えた気がするとライナは自覚していた。

もそもそと寝具の中に潜り込む。最近のライナは少し気を張っているのか、慢性的に疲れている。そのため、目を閉じるとすぐに寝られるようになっていた。

それでも毎晩、どんなに疲れていても、眠りに落ちる寸前に思い出してしまうのだ。


『ライナ』


そよ風のように自然で、今包まれている寝具とは比べものにならないほど暖かい、優しい声。

ライナ自身が望んだ幻聴は、いつも幸せな気持ちにしてくれる。疲れていれば泥のように眠ってしまうので夢を見ることは少ない。しかし、それはきっとライナが覚えていないだけで、現実よりも遥かに楽しい夢を見ているに違いない。


(やっぱりあの時、またキノコのスープを作る約束をすればよかった……)


今思えば、彼は少々強引なところがあったと小さく笑いが漏れる。決して料理上手とは言えないライナが作ったスープを、美味しそうに残さず食べてくれたあの夜のことは、絶対に忘れないつもりだ。


あの時もっと、自分の気持ちに素直になっていたら。そうしたらほんの少しだけでもイルミスの心に留まれたのかもしれないが、今更後悔してももう遅い。時が経ったら、そんな間抜けな花売りもいたことすらも忘れられてしまうだろう。

ライナは自嘲気味に微笑んで、まぶたを閉じる。小さな雫がひと筋こぼれて、丸い染みを作った。