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「ライナ、最近やけに張り切ってるねえ」


野菜を切っているライナの隣で、鍋の様子を見ていたセーラが言う。時折じっと観察されているような視線を感じて、ライナは居心地が悪かった。


「そう、ですか?」

「何かいいことでもあった? 随分調子がいいじゃない」

「……」


実際は真逆だ。ライナは先日のイルミスのことを振り切るように過ごしていただけで、いいことなどひとつもなかった。辛くなってしまうので、余計なことは考えたくない。


「で、どうなのさ。うまくいってるの?」


何も答えないライナに業を煮やしたセーラが好奇心に満ち溢れた目を向けてきたため、思わず視線を逸らした。手元にはこれから使う予定の、色とりどりの野菜が置いてある。


「……別に、何もありません」


ライナはここ最近、自分のために料理を学ぼうと思い直し始めていたところだった。ライナがイルミスに手料理を振る舞うことはもうできないだろうし、今後そのような相手が現れる可能性は限りなく低い。

それならば、せめて自分のために少しでも美味しい料理を作りたいと思う。そして食事の間だけは楽しかった頃の記憶を思い出して、噛みしめていたい。もしかしたら一生をひとりで過ごすかもしれない自分への、最初で最後のご褒美に出来たらいいとすら考えていた。


(私には、リンディアを渡すことすら叶わないからーー)


安定しない板の上を転がってきた野菜を手に取って、じっと見つめた。

鮮やかな、あの花と同じ色の野菜だった。