片手で小さな荷車を押し、もう片方には仕事道具が入った大きなカゴを提げて、夕暮れ時をひとり歩く。通い慣れた、家までの道。


最初は、市場から延びる華やかな石畳。この国の富裕層は財力が有り余っているようで、整備が行き届いた美しい路だ。貧富の差が激しいかどうかはライナには判らない。それだけ狭い世界で生きているからだ。

城下町から出ると、少しずつ草の割合が多くなる。名も知れない野の花がちらほらと見えて、いつものライナだったら心が和むところだ。今日のライナの目には映っていないであろう、薄桃色の小さな花が風に吹かれて揺れている。

更に進むと、木々が茂ってくる。鬱蒼と言うよりは、厳かという表現の方が似合う静かな森。この森の奥に、ライナの家はあるのだ。


通り道にある森の中の小さな湖に差し掛かると、湖面がちょうど赤とも橙とも言えない絶妙な夕焼け色に染まっていた。この情景は、長く住んでいるライナでもなかなかお目にかかれないほどのものだった。


「はあ、きれい」


足を留めたライナは、思わずほとりへと近付く。少し重い荷車をガラガラと押して。透明度の高い自慢の湖を覗き込むと、沈みかけた太陽とライナの顔が重なった。水面が夕日の反射を受けて、静かに輝いている。


ーーこの煌めきが自分の悩みも全部、浄化してくれれば良いのに。


ライナはしばらくそこに佇み、来るべき日のことを考えていた。