自分の感情が体から漏れてしまっていないか不安に思っていると、いつの間にかイルミスは手を伸ばすと触れそうな距離まで近付いてきていた。


「こんなに早くから、精が出ますね」


そう言いながらイルミスは、ライナの足元へ視線を動かす。ちらりと見える黄色が揺れた。


「……リンディアですか」

「今朝ちょうど咲き始めたところなんです」


イルミスが普段花の名前を当てることはなかっただけに、いかにリンディアが国民に浸透しているかが分かる。彼は口元に手を当て、少し考えるような素振りを見せた。


「……この花はどうするのですか」

「コーウェンさんに頼まれていた分は先ほど渡してきたので、後は個人的に楽しもうと思って」

「ならば、私に譲ってください」


間髪入れずに発せられたひとことに、ライナは瞬きを繰り返した。


「え? でも、この花は」

「申し訳ないが、どうしてもこの花をいただきたい」

「……」


柔らかな風がお互いの髪を微かに揺らして、ライナとイルミスの間を抜けていく。

懇願するようにただじっと見つめられると、ライナは胸のあたりが苦しくなっていくようだった。先程とは全く違う息苦しさを覚える。

それでも何とか息を吐き出すと、ぽつりと絞り出すように応えた。


「……わかりました。用意をするのでお待ちください」


先ほどより強く吹いた風が、再度ライナの髪と心を揺さぶった。