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柔らかな光が降り注ぐ朝。
起きぬけでまだぼんやりとしたままのライナが、何の気なしに花畑の方を見やると、その光景に思わず声が出た。


「あっ」


眠気が一気に吹き飛んで、走ってその場所へと向かう。歩いても大して変わらない距離だが、ライナは一刻も早く確認したくてたまらなかった。


「咲いてる……!」


昨夜は気温が暖かかったせいか一気に綻んだようで、鮮やかな黄色が点在している。少しずつ顔を覗かせているそれは、セーラと約束していたリンディアの花だ。
今摘んだら、切り花でも十分長持ちするだろう。ライナは朝食も食べないまま準備を始めることに決めた。


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「はあ……素敵だねえ。とても鮮やかな色だよ」


セーラがうっとりと花を見つめる。


「市場の花屋じゃこんなに濃い色は出せないさ。さすがはライナ」

「恥ずかしいので、そんなに褒めないでください……」


早速花瓶に生けたリンディアを幸せそうに見つめるセーラは、初めて恋を知った少女のように頬を染めている。その様子を見ていると、本当に花を欲しがっていたのはダグラスではなく実はセーラの方だったのではないかと考えつき、ライナは小さく笑った。


「それでは、そろそろ帰りますね」


どうしても朝一番に渡したくて、ライナはコーウェンの店まで駆けてきたのだ。店の開店を考慮すると、そろそろ辞さねばならない頃合いだろう。そのまま店の戸口へと向かい、扉に手をかける。


「こんなに朝早くから悪かったね。気を付けて……ああ、最近物騒だから本当に気を付けて」

「物騒? 見回りの騎士様は教えてくれなかったのですが、セーラさんは何か知っているのですか?」