立ち話が長くなってきたところで、短髪の騎士は頭をかきながら切り出してきた。


「ーーところでライナ殿、我々にも花を売ってもらえるだろうか?」

「花、ですか?」


ライナはきょとんと聞き返す。一瞬〝花を何に使うのだろう〟と花売りとしてあるまじきことも考えてしまっていた。それだけこの場にそぐわないことを騎士は聞いたのだ。


「ああ、突然すまない。君の育てた花が国王陛下を癒やしたという話は有名なんだ」


短髪の騎士は笑うと目尻が下がって優しい皺ができる。本来は穏やかな性格なのだろうとライナは思った。


「どんなものかとずっと気になっていた」

「実は、今回の見回り担当は争奪戦だったんです」


彼らの話によると、本日から始まった森の方への見回り業務は、希望者が殺到しているそうなのだ。普段から第二騎士団は街の警護や見回りを主な業務としているので、この状況は普通ではないらしい。取り急ぎ本日の担当はくじ引きで決められたという裏話も披露され、ライナは開いた口が塞がらなかった。


「そ、それは、噂がひとり歩きしているだけです!」


まさかライナの知らないところでそんな騒ぎになってしまっているとは、全く予想すらしていなかった。

人は何かに期待すると、実物がその期待以下だった場合には落胆してしまうものだ。大事に育てた花がそう思われてしまうのは辛いので、ライナは大いに困惑した。


「迷惑は承知でお願いです」


前にイルミスが言っていた、城が花だらけという話。あれは決して大袈裟に言ったわけではないのだろう。目の前の2人を見ていると、それがよく分かる。


(これがきっかけで、イルミスさんのように花に興味を持ってもらえるかもしれない)


物事を悪い方にばかり考えていても仕方ない。がっかりされるかもしれないが、もしかしたら気に入ってくれるかもしれないのだ。自室で癒してくれる花の存在が、その後の生き方を変えることもある。


ライナは2人に、自分の育てた花を見せることにした。