「失礼します。貴女がライナ殿ですか」


目が合うと、ライナから見て左側に立っている短髪の人が口を開いた。腰に下げられた剣の鞘が物々しい。


「は、はい、そうです……」


全く知らない顔だ。
怪訝な表情が出てしまったのか、短髪の彼は早口で続ける。


「失礼しました。我々は王国の第二騎士団の者です。これからこの近辺の見回りを行うことになりましたので、住民の方へご挨拶をと」

「それは、どうもありがとうございます」


随分と丁寧な人たちだとライナは思った。こんな風にこの辺りの家を一軒一軒回るのは、市場のある城下と違い大変だろう。

そこまで考えたライナは、先日イルミスが〝よからぬ噂がある〟と言っていたことをふと思い出した。


(そんなにこの辺りの状況が良くないのかしら……)

「あの」


思わず声をかけると、今度は右側に立っている長髪の騎士がライナに優しそうな笑顔を向けた。


「最近、この辺りで何かあったのですか?」

「……」


ライナの問いには何も答えず、2人は顔を見合わせている。


「イル……ええと、私の知っている騎士様がそのようなことを仰っていたので……」

「申し訳ない。何も話せないんだ」