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「次の献立も考えとくからね。暗いから帰り道気を付けて」

「はい。ありがとうございます」


何度も泊まっていけと勧められたが、ライナは家に帰る選択をした。意外と頑固なところがあることは昔から知っているので、セーラは必要以上に強要してこない。


(ーーええと、野菜を少し厚めに切って、調味料をかけて時間を置く)


ライナは教わった調理法を頭の中で繰り返しながら歩いた。手にした布袋の中に入っている調味料が揺れて、カサコソ音が鳴る。今まで使うことのなかったそれは、コーウェンの店で買ったものだ。これがあるのとないのとでは、仕上がりが大きく違うらしい。


(おまけまでくれて。本当にセーラさんには良くしてもらっているわ)


セーラは、一緒に煮ると香りが良くなる香草をおまけしてくれた。次にイルミスに料理を作る機会があれば使ってみようと考えて、ライナははたと立ち止まる。


(い、イルミスさんが望んでくださればの話ね!)


心の中での言い訳は、勿論自分に対してのもの。何故、さも当たり前のようにイルミスの食事を作ろうとしているのだろうと、ライナは自分の気持ちに驚いていた。


ーーいっそのこと、もう来ないと宣言してくれれば、こんな風に思わずに済むのに。


そんなことを思ってのろのろと踏み出した一歩目が、足元の小石をはじく。静寂に響くその音で我に返ったライナは、小さくため息を吐いた。


(またイルミスさんのせいにしてしまった。違う、本当は私がーー)


思いを伝えれば、終わる。


頭の片隅ではわかっていたことだが、まだライナにはその勇気が出せない。


(もう少し、このままでいたいと思ってしまう私は、赦されるのかしら)


空に輝く星が、まるでライナを励ますかのようにきらりと瞬いた。