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「こんにちは」

「いらっしゃ……ああライナ!」


イルミスと夕食を共にしてから数日後、ライナは買い出しのためにコーウェンの店に来た。

どんな風に挨拶しようかと考えあぐねた末に、いつも通りに戸を開ける。すると、ライナの姿を認めた途端に店の奥からセーラが迫って来た。


「ライナ! 恋人が出来たんならちゃんと紹介してくれないと!」

「こっ、恋人?!」


両肩を掴まれて勢いよく揺すられると、ライナの視界がガクンガクンと震えた。明らかにイルミスとのことを勘違いされていると知り、ライナは必死に抵抗した。


「ちょっと待ってくださいセーラさん! この前の方は違うんです!」

「今更何を言っているの! あたしはこの目でバッチリ見たんだからね。……あのお方は騎士様? どこで知り合ったの?」

「セーラさん、落ち着いて! あの方とは本当にそういう関係ではないんです」


矢継ぎ早に繰り出される質問に目を白黒させているライナを離そうとせずに、セーラはどんどん顔を寄せてくる。
彼女のトレードマークであるくりくりとした大きな黒目が、優しく丸くなった。


「あたしはね、ライナには幸せになってもらいたいんだよ」

「セーラさん……」

「あんたは昔から、強がってばかりだったから」


ライナがひとりぼっちになってしまった頃、コーウェン家から養子の申し出があった。頑なに固辞するライナに、いつも優しい言葉をかけていたのは他ならぬセーラだ。友達のように気軽に、そして母親のように愛をくれる。そんなセーラがライナは本当に大好きなのだ。


「どんな出会いであれ、運命を手繰り寄せるのはあんたの手だからね。そろそろ自分に甘えてもいいと思うよ」


(自分に、甘えるーー)


時間をかけて考えないといけないような深いセーラの言葉が、少しだけライナの背中を押した。