翌朝、ライナは鳥のさえずりで目が覚めた。家の周りは木が多いため、小鳥をはじめ様々な生き物が現れる。まるで朝の挨拶に来てくれている様だ。


「おはよう」


玄関の外にやってきていた小鳥たちの前に、昨夜ほんの少し取っておいたパンくずを撒く。器用にちょんちょんと歩いてついばむその可愛らしい姿に、しばしの間癒されていたライナだったが、太陽の高さを確認してハッとした。

慌てて顔を洗い簡単に身支度を整えると、家の裏に作られている畑に出る。


「おはよう。今日も綺麗に咲いてるね」


花や野菜に水をやりながら、ライナは思わず微笑んだ。葉の一枚一枚に水の粒が弾け、朝日を浴びて眩しく輝いている。

植物の生命を感じる、大好きな瞬間だ。


他の花に比べて少しだけ大きな白い花を見て、ライナは昨日のことを思い出していた。


ーー国王様はよく眠れただろうか。


不意に、昨日買い物をしてくれた騎士団員の姿が脳裏を掠める。自分よりも少し年上であろう優しい態度と落ち着いた声が、ライナの心をじんわり溶かしていく。

また彼に、会えるだろうか。
自分のようなみずぼらしい村娘など、記憶にも残っていないかもしれないけれど。


「いけない、そろそろ準備しなきゃ」


どうもさっきからぼんやりしてばかりだ。
平静に戻ったライナは自分を戒めながら、市場へ向かう支度を始めた。