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家に着くと、イルミスは野菜の収穫や花への水やりなどを手伝ってくれた。客人のイルミスにそんなことをさせるわけにはいかないと抗ってはみたのだが、笑顔でいなされる。


「今日はライナの手料理をいただけるので、これくらい当然です」

「手料理だなんて……そんな大層なものではありませんから!」

「いやあ、楽しみですね」

「……」


スープに入れる野菜を収穫しつつ、ライナは当惑していた。やはり余計なことなど言わなければよかった、と自分の言動に深く反省しながら。向こうではイルミスが上機嫌でキャベツの茎にナイフを当てている。

ーーよくよく考えれば、お互いの普段食べているもののレベルも違うはずなのに、軽々しく自分の作ったスープは〝美味しい〟等と口にするべきではなかったのだ。


(イルミスさんの期待にはとても応えられそうもないわ……どうしよう)


青ざめながらも、仕事を放棄するわけにはいかない。最後にライナは、先ほどセーラに頼まれたリンディアの種を蒔いた。優しく土を被せていると、頭上から声が降ってきた。


「何の種ですか?」

「それは……さ、咲いてからのお楽しみです」


蒔いた種がリンディアだということをイルミスには黙っておくことにした。ライナにとって、タイミングが悪すぎる。

何故ならこのリンディアの花はこのレンバート国の人間なら誰もが知っている〝恋の花〟からだ。ラッパのような形をした小さな房をたくさんつける、鮮やかな黄色の愛らしい花。特に恋人同士などの親しい間柄の者は、好んでこの花を贈り合ったりするものだ。流行ものには疎いライナでもそのことはよく知っている。今まで一体何人に、この花が欲しいと依頼されてきたことだろう。


「咲くまで秘密というわけですか、つれないですね。……ですが、それはまたここに来る口実に使えますね」

「え、そ、そうですね……?」


イルミスの憂いを帯びたような笑顔が、ライナの胸をさらう。隠さなければならない理由など本当は無いのだが、恋の花を育てているなどと好きな人に告げるのはいささか恥ずかしい。

見上げたイルミスの髪の毛が、夕日を浴びて朱く煌めいている。もうそんなに時間が経ってしまったのかと、ライナは慌てて立ち上がった。


「すみません、すぐに準備します」


急ぎ足で家へと向かっていくライナの背中に、転ばないようにと優しい声がかけられた。