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「よりによって、好きな食べ物、ですか」


堪えきれない、といった様子で肩を揺らして笑いながら歩くイルミスに、ライナは真っ赤になりつつ抗議をした。


「イルミスさんは、時々意地悪です!」

「失礼。好きな子のことは、いじめたくなるものですから」


余程可笑しかったのか、イルミスは笑顔を絶やさずにいる。一方ライナは、好きな〝子〟とイルミスに言われたことで子ども扱いされているように感じてしまい、ふてくされた。


「またそうやって。私はもう大人です!」

「そうなんですか? あまりにも可愛らしいので、妖精かと思いました」

「……それはキノコの妖精ですか」


大袈裟に驚いてみせるイルミスに、ライナはため息を吐いた。イルミスの想像の中では、自分は全身キノコの格好をしているに違いないと思ったからだ。ライナは、自分に女性らしいところが無いことくらい分かっていたが、それでもショックだった。


一体どうしたら、イルミスに〝ちゃんと〟見てもらえるのだろうか。心のどこかでは諦めながらも、イルミスの時々見せる態度に期待してしまう自分がいる。


そんなことを考えていたので、イルミスの言葉に反応するのが遅れた。


「いえ。花の精です」

「……え?」


花の精。
その言葉に驚いてライナは弾かれたように顔を上げる。途端、深くて優しい瞳に飲み込まれそうになった。
人間というのは現金なもので、先ほどまでの渦巻いた感情はどこへやら、ライナは嬉しさで胸が満たされている。どんなことを言われても、イルミスのことが好きなのだ。


「お気に召しましたか?」

「……そういうことでしたら、ゆ、許してあげます」

「ふふ。花の精は慈悲深くいらっしゃる」


そうしてお互い顔を見合わせて、笑った。
あんなに緊張していたことが嘘のように、打ち解けて。