「……失礼、します」


おそるおそる隣へやってきたライナが、耳まで赤くしていることに気が付いたイルミスは、小さく笑いながらそっと手を離した。


(ーーな、何か話さないと。ええと、ええと)


イルミスはこの沈黙を何とも思っていないようだったが、ライナは違う。荷物を家まで運んでくれている心優しい人に、これ以上不快な思いをさせる訳にはいかなかった。

横目に映るのは、いつもの濃紺の制服。歩く度に揺れる肩は力強そうで頼もしい。
そして肩から伸びる腕。
先日の、湖でのことが鮮明に思い出される。ライナはその両腕に包まれた時、今までの人生で経験したことのないような安心を感じてしまった。それほど優しく、温かい腕だったのだ。


(って、私ったら! な、何考えて……)


最近どうにもぼんやりしてしまうことの多い頭を振る。このまま変なことを考えないように、ライナは疑問に思ったことを素直に聞いてみることにした。


「イルミスさんは、お休みの日も制服を着ているのですか?」


不意に向けられた目線にどぎまぎしつつ、返事を待った。


「ああ、これですか。この方が都合が良くて」

「都合……?」


イルミスは軽く頷く。


「抑止力になるでしょう?」

「抑止力……?」


先ほどからオウム返しばかりで成り立っていない会話を終わらせるように、イルミスは苦笑いを向けた。


「私にも、色々事情があるんですよ」


それ以上は言えない、といった意味が含まれたような言い方に、ライナは更に尋ねることが出来なかった。