・・・・・


「……」


ライナの少し前を歩いていたイルミスは、ちらりと振り返ると立ち止まった。


「大丈夫ですか?」

「ごっごめんなさい、遅くて」

「こちらこそ。つい癖が出ました」


たたた、と急いでそばに寄ると、苦笑いのイルミスに迎えられた。いいえとライナは首を振る。


「お仕事なのですから、仕方ありません」


イルミスは国の騎士団員だ。そもそもライナはどうやって騎士になるのか分からなかったが、身元のしっかりした家柄の人なのだろう。


「仕事……そうですね」


何か考えるように呟いたイルミスは、今度はライナに合わせてゆっくりと歩き出した。


「今日は何を買ったのですか?」

「え、ええと……」


何の気なしに尋ねられて、ライナは大いにうろたえた。今隣を歩く貴方のために買い物をしていただなんて、言える訳がない。咄嗟に適当な作り話でも出来ればよかったのだが、ライナは突然の質問に混乱してしまっていた。そして、小さな小さな声で告げる。


「お、お茶とお菓子、です」

「……そうですか」


それ以上は追及しなかったが、イルミスはとても嬉しそうに返事をした。


やがて2人は湖の前を通りかかった。まだ昼間と呼んでもよいくらいの時間帯のため、日差しが木々に降り注ぎ、その影がゆらゆらと揺れている。その中をくぐり抜けるようにまっすぐ歩いて行くイルミスへ、ライナはおそるおそる声をかけた。

ーー実は今日のライナには、もうひとつ用事があったのだ。


「あ、あの、イルミスさん……」


ライナの呼びかけに優しい視線が返ってきたので、思わず胸の上に手を当てて呼吸を整えた。イルミスの視線を受けただけでドキドキと緊張してしまっている。


「まだ速いですか?」


歩く早さのことだと思い込んでいるイルミスに、ライナは赤くなりつつ首を振った。


「いえ、あの……少し寄り道してもいいでしょうか」

「寄り道?」


不思議そうに傾げるイルミスに、ライナはこくんと頷いた。