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「こんにちは」


湖を越えて市場のある街の方へ少し進んだところに、コーウェンの小さな店がある。簡単な食料品や日用雑貨などが置いてあり、この辺りに点在している数少ない民家にとっては生命線のような店だ。


「あら、いらっしゃい」


店主の妻であるセーラが陳列の手を止めて振り向いた。ライナは運んできた新鮮な花をセーラに手渡す。今日は赤や桃色の華やかな色合いのものを中心に選んできたのが良かったのか、セーラの顔色がパッと明るくなった。


「いつもありがとね。ライナの花があると気持ち良く過ごせるんだよ」

「ふふ。ありがとうございます」


祖母の頃から、こうして買い物ついでに花を届けるのが慣例になっている。それは、ライナに代わった今でも変わらないやり取りだ。ライナが一方的に渡しているのだが、セーラは時々おまけをしてくれる。悪いなと思いながらも、こういったコーウェン家の優しい気遣いをライナは好ましく思っていた。


「ええと、お茶とお菓子はありますか? できれば日持ちするものがいいのですが……」


イルミスはライナの家を訪ねたあの日以来、時々やってくるようになっていた。それは予告もなく、5日空いたり10日空いたりと随分不規則な来訪なのだが。
用件は、主にライナから買ったパンデルフィーの育て方について質問されることが多かったが、たまに物珍しいと感じた花を買っていくこともあった。