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「はあ」


夕日が赤く世界を染めてしまう前に、ライナは夕食分の野菜の収穫と花の手入れをしようと畑に出ていた。


「断りきれなかったわ……」


ため息混じりに考えていたのは、イルミスから渡された代金のこと。相場に釣り合わないと何度言っても全く聞いてもらえず、強引に押し付けられたものだ。それは市場での売り上げの、一体何日分にあたるのだろうか。

花の代金と引き換えに、土の付いたままのパンデルフィーを大事そうに抱えていった彼。
今度は切り花ではなく、身近な場所に植えたいのだという。


ーー思い出すだけで頭がくらくらしてくる。


先ほどまでそのパンデルフィーが育っていた、丸い土の窪みに手を触れながら目を閉じる。まぶたの裏にイルミスの優しい声や表情が鮮明に映し出された。

ライナは小さく息を吐く。


(この気持ちは、絶対に声に出してはいけないもの)


思うことは自由だ。身分も年齢も関係ない。
誰にも知られずに持ち運ぶことができる、ライナにとって大事な秘密。
それは、イルミスには知られないよう心の奥底に隠さなければならない、秘めた恋心だ。


「生活も安定していないというのに、恋情だけは一人前だなんて」


ふ、と諦めたように小さく笑うと、ライナを包むようにくるくると柔らかな風が吹き、近くの花たちをそっと揺らした。