(私が育てた花を、イルミスさんが見ている)


ライナは、思わず自分が見つめられているようだと錯覚しそうになった。慌てて首を振ると、不意に視線を向けられる。


「どうしました? 虫でもいましたか?」

「あっ、いいえ……大丈夫です」


俯くライナに、イルミスは微笑みかけた。


「最近、城の中が花だらけなのですよ」

「花だらけ?」

「例の白い花を王がいたく気に入りまして。庭師にあればかり植えさせる」


困ったものですね、と言われるが、簡単に同意ができる相手ではないだけにライナは固まってしまった。
そんなライナを気にも留めず、イルミスは続けた。


「ーー私は、こちらの方が好きですが」


そう言って丸みを帯びたパンデルフィーの花びらにそっと触れる。イルミスのその無意識な行動は、ライナをのぼせるには十分すぎるものだった。


「また少し分けてもらえますか」

「そ、それはもちろんです。そんなに気に入っていただけているだなんて、光栄です」

「この花を見ていると、不思議と気分が落ち着いて心が安まる。……貴女と過ごしている時間のようです」

「な……」


少しでもイルミスを癒せていることがわかっただけでもライナは嬉しかったのだが、後半の言葉は強烈だったようだ。夕焼け空に浮かぶ太陽のような真っ赤な顔をして目を見開いた彼女を見て、イルミスは声を上げて笑う。


「ライナの反応が初々しいので、つい言い過ぎてしまいました。冗談ですよ」

「……からかわないで、ください」


ライナの口から、掠れた声が漏れた。