「これは……」


そう呟いて足を止めたイルミスの視線の先には、ライナが丹誠を込めて育てている花達の姿がある。


「街の花屋さんと比べると数は少ないのですが……」

「もっと近くで見てもいいだろうか」


説明が終わらないうちにイルミスが歩き出したので、ライナは焦って大きな声を出した。


「あっ、待ってください! 土が湿っているので、お履き物が汚れてしまいます!」

「構いません」


そのままスタスタと歩いていってしまった背中を追いかける。やがてとある花のすぐそばまでたどり着いたイルミスは、しゃがみ込んだ。


「パンデルフィーですね」

「今朝ちょうど咲いたところなんです」


撒いた水がまだ乾いていないため、日の光を浴びて青い花びらが、葉が、きらきらと濡れている。


「……花はいいですね。生命力の強さに、心が洗われるようだ」


それはライナに向けた言葉なのか、独り言なのか判断がつかないほど小さな声だった。ライナは応えられないまま静かに隣へしゃがみ込む。それきり何も言わないイルミスの横顔をそっと覗き見ると、じっとパンデルフィーを見ていた。