「こちらが畑です……」


ーーまさかこんなことになろうとは。
ライナは困惑していた。突然やってきたイルミスにご馳走になった挙げ句、自分の畑を紹介している。

しかし、イルミスの表情は真剣だった。


「野菜も育てているんですね」

「はい。私の食べる分だけなので、小さいものですが」


瓜や葉物野菜などがメインの、ライナの好みも反映されている野菜畑を見せるのは、正直恥ずかしかった。今更ではあったが、自分の生活が垣間見えてしまうからだ。


「お、お花はこっちです!」


野菜話は早々に切り上げ、奥にある花畑へ案内する。ライナはいつもの作業用ブーツへ履き替えていたため何の問題もなかったが、イルミスの足元が心配だった。今朝方水やりをしたばかりで、土もしっとりと濡れている。今日は特に天候に恵まれそうだったため、多めに水を撒いてしまっていた。ライナはちらちらとイルミスの歩く先を確認しながら歩を進める。


「そう言えば、ライナは食べるものはどうしているのですか? さすがにあの野菜だけでは生きていけないでしょう?」

「ここから少し歩きますが、小さなお店があるんです。あ、こちらに来るときに見ませんでしたか? 緑色の屋根の……コーウェンさんというのですが、卵やお肉を分けてくださるんです。あとは……市場にいたときは、帰りにパンやミルクを買うこともありました」

「なるほど」

「ーーすみません。何も面白くない話をベラベラと」


にこにこと相づちを打って話を聞いてくれるイルミスに、つい話が止まらなくなっていた。ライナがはっとして押し黙ると、優しい声が耳に届いた。


「面白いですよ。私の知らないライナのことを知るのは」

「……」


普段から話し相手と言えば鳥や花がメインのライナにとって、返事をしてくれる存在がどれほど嬉しいことか。重苦しい雰囲気にならないよう、ほどよく軽口をたたいてくれるイルミスの優しさがありがたい。
感謝の気持ちからうっかり泣きそうになってしまったライナは、気付かれないように袖で目元を擦った。