(ただお茶を飲んでいるだけなのに)


イルミスはとても不思議な人だとライナは思う。物腰が柔らかく優しい雰囲気を持ちながら、簡単に人を従えてしまうような強制力があるからだ。あの碧い目を見ていると吸い込まれてしまいそうだ。


不意にライナの手が止まる。


(うっかり勧められるがまま食べてしまったけれど、イルミスさんの用件は何だろう)


ーーこれでもし、自分にはとても叶えられそうもない注文だったらどうしよう。高級なサクルの代金など払えそうもない。

ライナはそっと向かいに座るイルミスをうかがった。


「あの、イルミスさん。今日は……」


そこで言葉に詰まる。それ以上言うと〝早く帰って欲しい〟と捉えられてしまうかと思ったからだ。


「ああ、すっかり忘れていました。今日は、ライナの畑を見せてください」

「ーーえ?」


屈託のない笑顔でそう告げられるが、ライナはぽかんと口を開けた。まさかイルミスは畑作りでも始める気なのだろうか。


「わ、わかりました」


ライナは戸惑いながらも了承すると、残りのサクルを口いっぱいに頬張った。何も言わないが、イルミスは今日も忙しいに違いない。呆れたようなイルミスの声に、もっとゆっくり食べるよう注意されたが、ライナは構っていられなかった。