もうこんなに、日が高くなってしまった。
今日の分をどうしようかと思案に耽る。
パンはギリギリ買えるかもしれないが、ミルクは諦めないといけない。
市場での売り上げがそのまま自分の生活に響くので、ライナは毎日必死だった。

先ほど見た、ミレーヌのワンピースが脳裏を掠める。自分もいつか、あんな素敵な服を着られるようになりたい。

そんな風に考え込んでいたため、閉店間際にやってきた客に気付くのが遅れた。


「すみません」


ハッと顔を上げると、濃紺の制服が視界に入った。詰襟には、控えめにバッジが光っている。


ーー間違いない。この出で立ちは、王国軍の騎士団員だ。


意外な訪問客にドギマギしながら、ライナは応対した。


「ご、ごめんなさい気が付かなくて。いらっしゃいませ」


テトラ市場はレンバート王国の中心地区にあるため、城の関係者もよく見かける。王族がお忍びで買い物をしていると噂もあるくらいだ。

目の前の騎士団員は少しの間無言だったが、しばらく待っていると困ったように切り出した。


「……花を見繕ってくれませんか。王の寝室へ飾りたいのです」

「国王様、の、寝室!?」


ぽかんとするライナに、深い碧色の瞳が頷く。


「数輪で構いません。お勧めはどれですか」