「これからも、市場に行けば貴女が育てた花が買えると思っていました」


照れたような笑顔を向けられて、ライナは呆然とした。そんなにも花を好きになってくれていたとは、思ってもいなかったからだ。


「ーーライナ、頼みがあります」


真剣な顔をしたイルミスは、ライナに向き直る。突然笑顔を消したイルミスに、ライナは何を言われるのだろうと身構えた。


「また、私に花を売ってもらえませんか」

「え……」


願ってもみない申し出を聞いて、ライナは目を見開いた。続けて鼻の奥がツンとする。どうやら心より先に体が理解してしまったようだ。


「あの、それは」

「花を育てることは止めないのでしょう? それならば何の問題もないはずだ」

「……」


そう清々しいまでに言い切られると、気持ちが揺れる。

ーーずっと悩んでいた、これからも花を育てたいという希望。

ライナが諦めかけていた小さな小さな未来が、少しだけ色付いた気がした。


(イルミスさんは、なんて優しい人なんだろう)


ライナは左手で反対側の袖をぎゅっと握りしめながら、震える声で吐き出した。おさまったはずの涙が再びじわじわと溢れてくる。


「……ありがとう、ございます」

「ライナ、どうしたのですか! やはりどこか痛むのでは」


イルミスは、遠慮がちにライナの目元の涙を拭った。頬に触れた温かい指先が、さらにライナの涙腺を緩めてしまう。


「違うのです! ……これは、嬉しくて」


首を振って慌てたように否定するライナを見て、イルミスは一転して穏やかに微笑んだ。そして、上着から何かを取り出す。


「これをどうぞ」


ライナに差し出されたのは、白いハンカチだった。今日は使用する機会がなかったのか、きっちり折り畳まれている。普段なら断っていたかもしれないが、ライナはありがたく使わせてもらうことにした。