市場へ花を売りに行く最後の日は、朝から雲ひとつ無い見事な晴天だった。

いつもの様に身支度をし、花を選ぶ。
相変わらず悩みは尽きなかったが、幾分吹っ切れたのか昨日はここ数日で一番よく眠れた。


「おばあちゃん、行ってきます」


大好きな花畑に声をかけ、ライナは市場へと出かける。


いつもと変わらない光景を眺める。
野菜や果物のお店の前では、威勢のいい声が響いているし、端切れ(ハギレ)の荷車の前では、若い娘が楽しそうに布を選んでいる。
ライナはそんな市場の朝を見るのが好きだ。生命力に溢れたこの場所が自分の居場所だと思えるから。


いつもと同じ様に花を売る。
初めて見る人も、何度も来てくれた常連さんも、みんな大切なお客さんだ。食卓に明るさを出したり、寝室で癒されたり、花の持つ効果はすごい。ライナはそのことをよく知っていたので、たくさんの人に伝わればいいと思いながらここまでやってきた。


(この市場には花屋さんが他にもあるし、私がいなくたって何も変わらないけれど)


今までありがとう、ライナは心の中で何度もそう呟いた。